トラジャ・コーヒー

2018年03月12日

 

33歳の時、突然思い立ってインドネシアのスラウェシ島へ出かけたことがある。マカッサル海峡の夕日が世界一美しいという描写を本で読んだからだ。

どうしてだろう、昔から定期的に心の底から冒険心が湧いて出てくる。その時もそうだった。

訪れてみて、確かにマカッサル海峡に沈む夕日は格別なものがあったが、わたしにはもう世界一ではなかった。それまでに体験したサバンナに沈む夕日や、太平洋のど真ん中で見渡した夕日や、中央アジアの砂漠に沈む夕日に出遇った時も、それぞれがそれぞれの美しさで心のなかに刻まれていたからだ。

そこでわたしはジープをレンタルし、マカッサルからタナ・トラジャを目指して北上した。距離にして300km。レンタカーの社員からは、強盗や殺人などもあるから充分気をつけて行くようにと注意された。

以前から未開の地での車の運転は慣れている。最初の150km位は海岸沿いで心地よかった。途中で立ち寄った村の人たちも親切だった。残りの150kmのうち半分は内陸で最後の半分は未舗装の山道になっていて結構苦労した。

2日かけてたどり着いたトラジャは狭い山のなかから急に開けた平地になっており、まるでシャングリラだと思った、、、

こんな記憶が一瞬のうちによみがえったのは、セミネールの講義の前に立ち寄ったコーヒー専門店で何も言わないのに店の人からトラジャ・コーヒーを勧められたからだ。

カップを手に取って口に運ぶと、何だか懐かしい記憶が口いっぱいに広がった。

こうして日常のなかで時々訪れる「プルースト効果」は、いつもわたしを心のタイムマシンに乗せて懐かしい過去に運んでくれる。


 


トラジャ・コーヒー

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