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仏ユーロシリコン社訪問記

(2003年2月26日・ ユーロクリニーク院長 藤田博史 記)

 仏ユーロシリコン社の生産するシリコンバッグはリコール問題(こちらを参照)が取りざたされるまでは、わたし自身、その柔らかさと耐久性を併せ持つ利点から、豊胸手術においてもっとも多く使用したバッグであった。それだけに、リコール問題が生じてからは、ユーロシリコン社の製品の使用を長期間にわたって控えなければならなかったことは、施術者にとっても消費者にとっても、ある意味残念なことであった。その後、2003年2月の時点においても、我が国におけるユーロシリコン社製シリコンバッグに関する最新情報はきわめて乏しい状態である。たとえば「日本美容外科学会」のホームページに掲載されているをみてもわかるように、ユーロシリコン社の生産するバッグに関する情報は曖昧なままである。

 そこで、先に訪問したアリオン社に引き続き、わたし自身が、実際にユーロシリコン社を訪れ、社長のフランソワ・M・トゥルニエール氏 Monsieur Francois M. Tourniaire 氏、およびご子息で同社輸出部長のオリヴィエ・トゥルニエール氏 Monsieur Olivier Tourniaire、そして同社研究所のジョエル・キルコリアン薬学博士 Docteur Joel Kirkorian から直接、現時点における製品情報について詳しく話を聞くことにした。

 ユーロシリコン社のあるアプト Apt の町は、ニースから西へ260kmほど離れたプロヴァンス地方のなかに位置している。有名なアヴィニョンの町もここから50kmほど西に行ったところにある。ニースを発ち、高速道路を約220kmほど走ったところで一般道路に降りると、目の前にはプロヴァンス地方らしいのどかな田園風景が広がっていた(下の写真)。

アプトに向かう一般道路。あいにく曇り空。道路脇右側はワイン畑になっている。

 カヴァイヨン Cavaillon という町を過ぎて、さらに40kmほど走るとアプトの郊外にある工業団地 Zone Industrielle が右手に見えてくる。交差点を右折し団地のなかに入ると、すぐにユーロシリコン社を見つけることができた。青い文字で EUROSILICONE と書かれた看板が目を引く。門のすぐ横には3本のポールが立っており、ECの旗とフランスの国旗、そしてなんと日本の日の丸が掲揚されていた。訊くとわたしの訪問に対して敬意を表してくれたのだという。なるほどフランス人的な粋な心配りである。

ユーロシリコン社入り口、EC旗、フランス国旗そして日の丸が掲揚されているのが見える

近づいてみるとこんな感じこの日はプロヴァンス地方特有の強い風が吹いていた

 オフィスに入ると社長および息子の両トゥルニエール氏が微笑みながら出迎えてくれた。ゆったりとしたレセプションで、働いている秘書の女性たちもきちんとビジターに挨拶をしてくれるのでとても感じがよい。そのまま会議室に案内されたので、少しばかり世間話を、とおもい「わたしは1979年にニースに来て住み始めたのですが、はやいもので今年で24年目になるんです!」と切り出すと、息子のオリヴィエ氏は「そうなんですか!ぼくはね1971年にニースで生まれたんですよ!」と目をくりくりさせながら嬉しそうに話してくれた。なんとトゥルニエール氏一家は以前ニースで香水関係の仕事をしていたのだという。

社長のフランソワ・M・トゥルニエール氏と

 オリヴィエ氏に案内されてまずは工場見学ということで、道路を挟んで向かい側にある清潔な白い建物に向かった。入り口を入ると敷居があり、そこから向こうが清潔区域になっている。しがたって、ここで使い捨ての靴底カバーを履かなければならない。内部はガラス越しに作業室を見渡すことができるようになっており、なかでは防塵マスクをつけ白い作業服に身を包んだ従業員たちが、各自のテーブルで手作業でシリコンバッグを作成していた。従業員は約220名。基本的な光景はアリオン社のそれと似ている。つまり、キノコ状の型を液状のシリコン(米国ニューシル・シリコン・テクノロジー社 NuSil Silicone Technology 社製高性能シリコン・エラストマー[液状高分子シリコン])のなかに浸してから引き出し、ゆっくりと回しながら手作業でシリコンの皮膜を均一化させている。シリコンの膜が均一化したら120℃の温度で1~1.5時間ほどシリコンを「焼く cuire」とのこと。アリオン社の作業工程と異なるのは、この作業を9回繰り返して9層の皮膜を作っているという点であった。しかも皮膜の中間層には、同じくニューシル・シリコン・テクノロジー社製のバリアー・コートBarrier-Coat が挟み込まれており、大きく3層に分かれる断面をつくり出している(下図)。これによってシリコンジェルの浸透をブロックすることが可能になっているという説明であった。

シリコンシェルの断面図(ユーロシリコン社パンフレットより抜粋

 ユーロシリコン社で使用しているニューシル・シリコン・テクノロジー社製のシリコンは、全世界のシリコンシェアのなかでも最も高品質であるとのことで、実際に使っていることを証明するために、工場内部ではあるが、オリヴィエ氏が今回特別に容器の写真撮影を許可してくれた(下の写真)。

NuSil Silicone Technology社製シリコンのドラム缶。直径が1mほどもある

 さて、今回訪れたわたしの最大の関心は、実はバッグの裏側の封印の部分の安全性と構造の確認にあった。というのもわたしの個人的な経験として、昨年の夏、手元にあったいくつかのユーロシリコン社製のシリコンバッグの封印の部分を子細に観察したことがあり、通常では見逃すほどの針穴のような亀裂があるのをすべてのバッグに確認していたからである。この質問を投げかけると、社長のフランソワ・M・トゥルニエール氏が、すぐさまわたしの示したLOT番号を見て「あなたが問題にしているのは5年前に生産されたバッグですね」と切り出した。実は、製造の過程で、この封印の縁の部分にテフロン製の細い針を刺してシリコンジェルを注入しているのであるが、当時はテフロン製の針で開いた穴は次にくる「焼く」処理によって自然に閉じてしまうために、特にわざわざ閉じるような処置はしていなかった、とのことであった。なるほど、わたしの観察した状態とトゥルニエール氏の説明した内容がぴったり一致するので「やはりそうだったのか」と納得すると同時に、この問題が「改善されている」ことにひとまず安堵した。「それにしても針穴に対してなんの処置も施さないで本当に大丈夫なのですか?」と念を押して尋ねてみると「基本的には圧力差によって焼いている間に自然に閉じてしまうのだが、現在は念のため針穴にシリコンを塗布して完全に閉じています」とのことであった。実際に古い商品と現在の商品とを手にとって比較してみたが、なるほど現在の商品は非常にきれいにシーリングされているのがわかった。

 さらに話を「リコール問題」に振ると、キルコリアン博士がニヤリとしながら「あれは政治的なものがあったんですよ」と切り出した。博士の説明によると「ユーロシリコン社のシリコンバッグの滅菌はエチレンオキサイドガスによるもので、当社ではすべて外注している。ところが何らかの理由でパッキングが破れているものが見つかった。したがって当然のことながら再度滅菌処理をした。どういう訳かこれに対してクレームが付いてしまった」ということであった。「安全上はまったく問題がない」にもかかわらず「エチレンオキサイドガスがバッグのなかに残留しているのではないか」という疑いまでかけられ、これに対して「実験と測定を重ねてバッグの内部にエチレンオキサイドガスの残留がないことを証明し最終的に問題は解決した」とのことであった。したがって「リコール問題はユーロシリコン社のシリコンバッグの品質の問題ではまったくないということを理解してほしい」と重ねて強調していた。

きさくでひょうきんなキルコリアン博士と

 また「クリスタリン・パラジェル(いわゆる"クリスタルバッグ")」において「アリオン社訪問記」でも書いたが、塩を振りかけて物理的にテクスチャーを刻まれたバッグは「シェルが薄く弱くジェルが漏れやすい」という「日本美容外科学会」の寸評があるが、これは本当か? というわたしの質問に、やはりニヤッとしながらしかしきっぱりと「それはありえない」と答えた。つまり、すでに触れたように、ユーロシリコン社のシリコン皮膜は9回の「焼き入れ cuisson」によって製造されているが、テクスチャータイプの「クリスタリン cristalline」はさらにその上にシリコンの膜を一層乗せた上で塩を使って凹凸をつけており、基本的な強度や皮膜の性質は表面がなめらかなタイプのものと何ら変わりがない、ということで紙に図を書きながら丁寧に説明してくれた。

 というわけで2003年2月現在におけるユーロシリコン社製品の安全情報をまとめてみれば次のようになる。

 1.ユーロシリコン社の生産する乳房用インプラント(生理食塩水バッグおよびシリコンバッグ)はすでにCEマークを取得済み(200年12月)であり、かつフランス公衆衛生安全局 (AFSS = Agence Francaise de Securite Sanitaire) の認可も得ている。したがって当然フランスにおいても販売されている

 2. 「リコール問題」は解決済み。そもそもこの問題は「政治的なもの」(キルコリアン博士)であって「製品の質や安全性とは無関係」(同博士)。

 3. 表面がテクスチャータイプのクリスタリン・パラジェル Cristalline Paragel のシェルの強度に関しては、その生産工程から明らかなように、外表面の加工(塩を用いる)によって影響を受けることはない。つまり、同社のスムースタイプのバッグであるパラジェル Paragel と同様の強度を持っている。

 4. バッグの裏側の封印の部分の安全性と構造に関しては、以前は放置されていた注入部位の針穴も、現在ではシリコンを塗布することによって完全に閉鎖されている。

 楽しい世間話も交えながらなごやかに話ははずみ、気が付くとすでにユーロシリコン社に着いてから5時間が経過していた。「こんなに長い時間おじゃまして本当に申し訳ありませんでした」とお詫びの言葉を口にすると、3人ともニコニコしながら「全然!それよりも質問があるなら、もっとしてください!(笑)」と返されてしまった。

輸出部長のオリヴィエ・トゥルニエール氏と

 帰り際にユーロシリコン社の製品の安全性に関する資料を受け取り、最後のお礼を申し述べたときには時刻はすでに午後7時を回っていた。もう少し会社に残るというキルコリアン博士に別れを告げ、帰り支度を済ませたオリヴィエ氏と共に階段を下りて駐車場に向かった。辺りはすでに暗く、夕闇のなかで「さようなら、また近いうちに会いましょう!」と言葉を交わして別れた。

 帰りの高速道路を走りながら、これまで堆積していた種々の疑問が氷解したことを嬉しくおもうと同時に、現時点におけるユーロシリコン社の製品の価値をもう一度前向きに、しかも正確に再評価する必要がある、ということを強く感じた。

 末筆ながら、突然のわたしの訪問を温かく迎え入れてくださった、社長のフランソワ・M・トゥルニエール氏、オリヴィエ・トゥルニエール氏そしてジョエル・キルコリアン博士に深く感謝いたします。

Je voudrais remercier de tout coeur le President Francois M. Tourniaire,

Monsieur Olivier Tourniaire et Docteur Joel Kirkorian de leur profonde bienveillance. Docteur Fujita Hiroshi


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